音楽どうする会議 第一回「音楽ライターはどうする?」レポート

2013年11月12日 3:30

【レポート】音楽どうする会議 第一回
テーマ「音楽ライターはどうする?」

 

取材・文 / 長縄健志(Musicman-NET)
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エムオン・エンタテインメント(JAMBORiii STATION)とMusicman-NETによる公開トークセッション「音楽どうする会議」第一回が11月1日 東京・渋谷ヒカリエ 8/COURTで行われた。

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「これからの音楽をどうするか?」…音楽業界の内部にいる人が集まり、現在の居場所からその未来を具体的に探り、オープンに発信することを目的とした、このトークセッション。第1回目は「音楽ライターはどうする?」と題し、満席の渋谷ヒカリエ 8/COURTで、WEBメディアの行方やそのビジネスモデル、そして音楽批評をテーマにトークが展開した。

登壇者は石井恵梨子氏(音楽ライター)、神谷弘一氏(Real Sound編集長/株式会社blueprint代表取締役)、小林“こばーん”朋寛氏(ライター/エディター/音楽紹介家)と、MCの三浦 紹氏(JAMBORiii STATION)の4名。

イベントスタートに先立ち、会場を提供した東京急行電鉄株式会社 渋谷開発事業部 磯辺陽介氏が登壇。”エンターテイメントシティしぶや”をキーワードに渋谷再開発を進める磯辺氏は「渋谷再開発には、渋谷から新しいことが生まれるサイクルが必要。『音楽どうする会議』の”どうする”という能動的なスタイルが、その一つのきっかけになってくれれば」と挨拶した。

東急電鉄磯辺氏
“エンターテイメントシティしぶや”のコンセプトを紹介する磯辺氏

トークセッションは紙メディアとWEBメディアの比較から始まった。両者の違いについて神谷氏は、「大きな違いはヴィジュアル性。音楽に関する紙メディアの一番の売り物は、特に90年代以降はヴィジュアルであり、いかにいい写真を綺麗なレイアウトで見せるかが、その存在価値だった。対して、WEBメディアはテキストに重きが置いてコミュニケーションをとることが重要になっている」と分析。

「WEBのほうが文章をしっかり読まないという印象がある。実際、WEBだと3,000字を越えると長いと言われてしまう」と言う石井氏に対し、神谷氏は各媒体によって違いがあると断った上で「ネットの場合はニュース性が強いので、800〜1,200字のものがよく読まれる傾向はある」と語った。

小林氏は「どうしても紙とWEBという二項で語られがちだが、今後はWEBの中でヴィジュアル指向とテキスト指向の二分化が議論されるのではないか」と予測し、神谷氏もその意見に同意しつつ「今はシェアされやすい分、テキスト有利という印象」との認識を示した。

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RealSound編集長 神谷氏(写真 中央)

「紙媒体とWEBで書き方は基本的に変えない」という石井氏は、「違いは書き終わってから出るまでのスピード。やはりネットは圧倒的に早い。そして、紙に比べてギャラが安い(笑)」と忌憚なく語り、会場を沸かせる。

現状、WEBメディアの収益は「いわゆるナショナル・クライアントからの純広と音楽業界からのバナー広告、タイアップ記事。あと記事提供によるキックバック(小林)」が軸となっており、「配信をいかにしっかりやっていくかがブログメディアにとっては生命線になっている。事実、Yahoo!トピックスに掲載されると何十万人の人がReal Soundに訪れてくれる。日本中の人たちがまずはYahoo!をチェックしてニュースを探すという行動パターンがある以上、影響は大きい(神谷)」とのこと。

ただ、開発費やサーバ費用などコストの回収、そして原稿料や撮影料の捻出は容易ではないようで、「WEBメディアがPVだけで稼ぐとすると、チームの規模にもよるが、1,000万PVでようやく回り始めるくらいのビジネスモデル。Real Soundは順調にPV数を伸ばしているが、まだ儲けには至っていない(神谷)」そうだ。
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ネットにおけるマネタイズの話の一環として、2010年に石井氏が試みた、デジタルデータ作品配信サイト「nau」におけるインタビュー記事の販売について話が移り、石井氏がその内実を語る。

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「『nau』から提案されて、横山健さんと後藤正文さんのインタビューをやったんですが、まあ、儲かりませんでしたね(笑)。インタビュー原稿を100円で売り、そのうちの2がサイト、残りの8を2分割した4、つまり40円ずつが私とインタビューイ(※)にそれぞれ行くんですね。結果的に500人くらいの方々が買ってくれたんですが、40円を積み上げたところで1万円ちょっとにしかならず、取材交渉から何から私一人でやったので、『これをお金にするには私一人では無理だな』と思いました」
(※)取材対象者

ただ、「音楽雑誌では読めないようなものに仕上げた」というインタビューに対しての、読者の反応は興味深かったようで。

「音楽雑誌って新譜が出て、それについてどんな思いが込められているかという話に終始しますが、そういうものとは違うものが読めたのはよかったという感想を頂きました。アーティストも新譜が出たから喋りたいんじゃなくて、特に弁の立つ方はどんなテーマでも面白く返してくれる」と手応えを感じたものの、「インタビューをネットで売るというのが早かったとも思わないんですが、他のライターが続かなかった(笑)」と石井氏。

また「この試みの重要な部分は喋った本人にもお金が行くこと。音楽雑誌のインタビューはプロモーションを理由にどんなに喋ってもアーティスト側は一銭にもならない。そうではなくて、こういう風にすれば、話したいことを話してお金になるかもというアプローチだったんですが、それが一万ちょい(笑)。それが声を大きく宣伝できなかった要員の一つ(笑)」と振り返った。

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音楽ライターの石井氏

小林氏はアーティストにもお金が入る仕組みは画期的だと評価しつつ、「直接売るより、配布で広告収入を得た方が個人に入る額は大きいんじゃないかもしれない。Yahoo!も今『Yahoo! 個人』というメディアではなくて個人がそこに情報を寄稿するということをやっているが、100万PVで同じくらいの金額になる」と提案し、「WEBメディアにしても、個人ブロガーにしても、自分でメディアを立ち上げて、価値があればYahoo!ニュースに記事を突っ込んで、そこから広告収入を得るのは夢ではないし、そういったアプローチがもっと増えるんではないか」と語った。

また、最近はアーティストが公式サイトを使い直接メッセージを発信している傾向を踏まえ、「そういったアーティストのお手伝いも音楽ライターとしては増えていくんじゃないか。公式サイトだったらページの制限も、文字数の制限もないし、写真もたくさん載せられる。アーティストとライターが親密に話したことが載せられるというのは、結構いいんじゃないかと思っています」と小林氏。

横山健さんの公式サイトでインタビュー原稿の執筆経験もある石井氏も「かつてオフィシャルライターって、提灯記事屋みたいな凄く悪いイメージがあったんですが(笑)、自分の言葉を持っていて、発信力がある方だと、凄くやりがいがある」と話し、小林氏は「良いことしか書かないというのがこれまでのオフィシャルライターのイメージだが、今はアーティスト側も『突っ込んでいいよ』という両者の信頼関係で成り立っている」とその変化を感じ取っているようだ。
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トークセッションは、その都度、参加者の質問に答える形で進められたが、質問の中でも印象深かったのが、WEBメディアにおける「音楽批評」に関するものだった。

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三つ目のテーマ「音楽批評どうする?」

神谷氏は「音楽雑誌は長らく『批評機能』を担っていた。中村とうようさんの『ミュージック・マガジン』があり、渋谷陽一さんの『ロッキング・オン』があり、色々な批評の拠点だった。それが2000年以降、WEBに移行していく中で現れたのがナタリーで、音楽雑誌的なものが苦戦する中で、批評を完全にカットした状態で、情報がたくさん取れる仕組みとしてのナタリーが生まれた。一方で音楽雑誌が延々とやっていた『批評』という部分は死んだのかというとそんなことは全然なくて、ネット上では2chやブログなど色々なところで生き延びている。それが現状、なぜ商業メディアになっていないかというとネットのマネタイズの問題で、みんな躊躇してやってこなかった」と語る。

神谷氏率いるReal Soundはその「WEBでは追求されてこなかった音楽批評の可能性」が発想の元になっているそうで、「かつての音楽雑誌が持っていた批評性をネットの時代にアップデートするという作業が今後始まってくるのではないか」と予測。その兆候として「今、音楽を批評的に語ることを価値にしていこうということを始めているのがブロガーの方々なのではないか」とブロガーの台頭を挙げた。

ブロガーに関して、小林氏は「記名で書かれるようになったのが最近の傾向で、アメリカは記名して突っ込んだ記事を書くことによって、ブログメディアが大手マスメディアを凌駕したという歴史があり、今回のタイトルにも名前が挙がっているPitchforkはそういった流れの中でのサイト。日本がそれにどう追随していくのか分からないが、そういう流れが少なからず日本のメディアに出てくるんじゃないか」と付け加えた。

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ライター、エディターそして音楽紹介家など幅広く活動する小林“こばーん”氏

また「批評=悪口、辛口と誤解されている」と語る石井氏は「批評は主観でしかないので、そこから逃げないことが重要じゃないか。『私はこう思ったのだ』と言い切ってしまう。例え、それが大間違い、勘違いであったとしても、書き切ってしまうことが私は批評だと思っています」と意見を述べた。

Pitchforkと言えば、点数をつけたディスクレビューが有名だが、ここ日本ではなかなか難しい状況のようで、神谷氏も「レビューページは色々あるReal Soundのコンテンツの中でも上手くいっていないところ(笑)」と正直に語る。レビューはニュース記事やコラム、インタビュー記事に比べると圧倒的に需要が少ないそうで、「もちろん面白い記事を多く提供できていないという問題もあるでしょうし、一方で日本のユーザーが作品レビューというものをどこまで求めているんだろうという壁に直面している(神谷)」そうだ。

続けて神谷氏は「Pitchforkが今Spotifyの中にアプリとして入って、リコメンドし、課金を得ていくというビジネスを展開しているが、今後の音楽メディアのビジネスとして、Pitchfork的な信頼性のある点数メディアが核になるだろうという予想がある一方、日本でやるとしたら、相当本腰を入れてやらないと難しいというのが事実で、レビューに関しては今後の課題」と語った。

最後に”今後の音楽ライター像について”振られた石井氏は「音楽ライターだけで生計を立てるのは非常に厳しい」と現状を語りつつ、「批評やインタビューの需要はなくなっていない。とにかく場所がある限りは発信し続けることが大事」と会場の音楽ライター志望者に語りかけた。また「書き手の意志・主義・主観を大事にしてくれるサイトが増えたら嬉しい」と今後に期待を寄せた。

「音楽ライターになりたいと思っている若い方々がこれだけいらっしゃるということ自体、ネット上にニーズが生じている証拠なので、Real Soundを何とか形にしていきたい」と神谷氏。

小林氏は「メディアを独自に作られてやっている方も多いと思いますが、どこか大きなプラットフォームに乗っかるのも手だと思いますし、そういったプラットフォームが今後増えていけば、音楽に関して何かを述べていくことでお金にするということは十分可能だと思います。今もアーティストの皆さんは素晴らしい作品を作っていますし、すごく真剣な思いで作品を作っています。その熱量を直接的に伝えるためには、愛をもってそこに携わっていく、批評していくことが必要になってくるんじゃないかと思います。音楽は本来楽しいものなんですから、悲観することなく楽しんでやっていきましょう!」と客席に語りかけ、トークセッションは終了した。

音楽どうする会議

次回の「音楽どうする会議」は2014年1月を予定している。音楽どうする会議サムネイル