「ヒット」を再定義して音楽の未来を描く
『ヒットの崩壊』著者 柴 那典氏インタビュー

日本の音楽文化を新しいモデルから捉え直す

『ヒットの崩壊』著者 柴 那典氏インタビュー●今回10名の方に取材されていますが、数多くのアーティストの中から小室哲哉さんといきものがかりの水野良樹さんのお二人に取材されたのはなぜですか?

柴:まず、企画の段階で「取材ありきで書きたい」というのが希望としてありまして、これは『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』と同じ書き方なんですね。前著では「2007年に初音ミクが起こした現象は67年、87年に続くサード・サマー・オブ・ラブだったんじゃないか?」という仮説があり、その答えを知っている一番の当事者は初音ミクを生み出したクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長だろうと取材をしました。

同様に「90年代から2010年代までで、ヒット曲の意味が変わっているんじゃないか?」という仮説を立てたとすると、その一番の当事者は小室哲哉さん以外に考えられませんでした。小室さんは90年代最大のヒットメーカーですし、その後もインターネットやSNSなどテクノロジーとメディアの変化をずっと追っていて、今再び音楽の最前線に立たれている。そういうことも含めて、ヒット曲について語るには最適な方だろうと。

いきものがかりの水野さんとは、数年前に評論家の宇野常寛さんのトークイベントでお会いしたんですが、「自分の作った曲がどう響くか」「どう伝わるか」ということに、すごく深い考えを持たれていて、正直びっくりしたんです。いきものがかりはメジャーデビュー以降ずっと付き合ってきたというよりは、ここ数年取材させてもらうようになったアーティストなんですが、その中でも水野さんはある種の論客として切れ味の鋭さを感じました。水野さんは「今の時代にヒット曲や流行歌がどういった役割を果たすのか?」「どういった意味合いを持っているのか?」を俯瞰で語れる方ですし、『ありがとう』という多くの人の心に届くJ-POPスタンダードを生み出したという意味で、ものすごく適任な方だと思いました。

●小室哲哉さんと水野良樹さんへの取材は本書の軸になっていますよね。

柴:ええ。小室さんと水野さんに取材を快諾いただいたことで、企画が走り始めた感はあります。お二人からOKを頂いてなかったとしたら、企画がストップしていたかもしれません。

●水野さんがあれだけ社会と音楽に対して自覚的な人だと知らなかったので驚きました。

柴:ミュージシャンの中でも「自分は音楽が好きで、ただ単に良い曲を作れば良い」みたいな純音楽家的な発想を持たれる方は多いですし、それはそれでとても正しいことだと思うんですが、水野さんはそういうタイプではなかったというのはすごく印象的でした。ある種のこの本の主役の一人になっていると思います。

●取材はかなわなかったけれど、お話を聞いてみたかった方はいらっしゃいますか?

柴:例えば、亀田誠治さん、中田ヤスタカさんといったプロデューサーの方にもたくさんお話を伺いたかったところですが、皆さん猛烈にお忙しいですからね(笑)。でも、亀田さんに関しては、本書の中で触れています。亀田さんはNHK Eテレ『亀田音楽専門学校』の中で「J-POPは世界に誇る総合芸術である」と語られているんですね。90年代に生まれた「J-POP」という言葉のイメージや意味の転換をかなり自覚的に行ってきた。しかもNHKの番組でそれを発信されました。日本のポピュラー音楽カルチャーをポジティブに位置づけることに関しては、亀田さんはすごく功績のあった方だと思うので、是非取り上げたいと考えました。

また、中田ヤスタカさんも、きゃりーぱみゅぱみゅやPerfumeを通して日本の音楽カルチャーを世界に発信しています。アメリカにもイギリスにもフランスにもない、東京の音楽カルチャーを現在進行形で作られている方だと思ったので、その辺の感覚を伺いたかったですね。結果として中田ヤスタカさんに関しては、ワーナーミュージック「unBORDE」のレーベルヘッド 鈴木竜馬さんに「中田ヤスタカさんがきゃりーぱみゅぱみゅを世に出したときに、どういったイメージやビジョンを持っていたのか」を語っていただきました。加えて、別件で中田ヤスタカさんと米津玄師さんの対談を映画の『何者』のタイミングでさせていただいて、その中で「東京」ということに関してお話を伺ったので、本に引用しました。本当に校了間近だったので、ギリギリでした(笑)。

●中田ヤスタカさんの音楽はルーツがあまり見えないと言いますか、「東京発のサウンド」という印象が強いですよね。

柴:日本の音楽文化は、明治以降、舶来文化をどう解釈し、どう日本向けに翻案するかという営みの中で発展してきました。それはジャズもそうですし、戦後のラテン歌謡、ロック、フォーク、ポップス、ヒップホップもそうですよね。あと演歌に関しても、海外の影響が色濃いです。演歌の巨匠・古賀政男さんは明治大学マンドリン倶楽部の創設に参画したり、スペインのギター奏者アンドレス・セゴビアに影響を受けていたりするわけですからね。

そういう風に100年以上発展してきた日本の音楽文化を、新しいモデルから捉え直さなければいけない時期になったんだと僕は思っているんです。一番わかりやすい変化の象徴が宇多田ヒカルさんです。デビュー時もそうですが、今の宇多田ヒカルさんはより国境を感じさせない存在になっていますよね。今出てきている若手ミュージシャンも、海外進出という発想すらない。最初から日本と海外が等価値で、単に住んでいる場所だけが違う。「文化を輸入しなくて良い。なぜならリアルタイムで繋がっているから」という感覚が前提になっている層がすでに出てきています。そういう意味では今年起こった現象、例えば、宇多田ヒカルさんの復活もそうですし、本書には間に合いませんでしたが、ピコ太郎だってとても象徴的な出来事です。最早言い古された言葉ですが「国境がない」のが前提になってきている感じがします。

●ピコ太郎はあっという間に世界中へ拡散されていきましたものね。

柴:本の中でいきものがかりの水野さんが「自分だけでは届かない場所に届くのがヒットである」とおっしゃっているんですね。自分が全く想像していない文化、普段暮らしていたら決して話さない、会わない相手のクラスタやコミュニティに曲だけが届いてしまう現象を「ヒット」と定義するならば、タイやインドのような場所でPPAPが真似されているというのは、売上とか枚数とかではなく、本来的な意味での「ヒット」という現象が起こってしまったわけです。『ヒットの崩壊』という本書のタイトルの意味を思い切り覆されたんですが(笑)、それはとても喜ばしいことだなと思うんですよね。

●「ヒット」という言葉の捉えられ方も変化しているし、多様化もしている。

柴:そうですね。90年代はあくまでCDというパッケージの売れた枚数が多いことが「ヒット」とイコールでした。その尺度で捉えると「ヒット」はどんどん減っていますが、ビルボードジャパンの磯崎誠二さんは「"ヒット"と"売れる"はそもそも違うんだ」とおっしゃっている。恐らく「ヒット」というものを定義し直す必要があったのが、ここ10数年間だった。厳しい言い方をすると、それを怠っていたから「音楽業界が不況だ」と後ろ向きなことを言われ続けてきたのだと思います。





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