「ヒット」を再定義して音楽の未来を描く
『ヒットの崩壊』著者 柴 那典氏インタビュー

ヒットチャートの崩壊とその重要性

『ヒットの崩壊』著者 柴 那典氏インタビュー
●本書で興味深かったのが「チャートが分断している」という話です。本書ではオリコン、ビルボード、JOYSOUNDに取材をされていますね。

柴:まずオリコンさんに関して、色々な人が「ここ数年、オリコンのシングル年間ランキング上位にはAKB48しか載っていない」と言っていますよね。ただ、この事象も外側から言うのではなくて、オリコンの中の人に「この事態をどのように捉えているのか?」と取材してきちんと語っていただく必要があると思っていました。ですから、「第二章 ヒットチャートに何が起こったか」もオリコンさんからの取材快諾をいただいた時点で、走り始めた章です。これも、もし快諾いただかなかったら書けなかったと思います。

オリコンさんは本の中でも書いた通り、課題を抱えています。一方で取材して初めて聞いたんですが、オリコンさんは病院や引越し業者のランキングも作っている。それはある種口コミを数値化する技術で、ビッグデータに関する今とてもホットな領域なわけです。人々が何となく感じている好感度を数字にするというところに、企業として取り組まれている。そういう意味で、一面的に「オリコンは遅い」とか「遅れている」というようなことを言うつもりもないです。

一方でビルボードは、日本では後発ですが、すごくきちんとした設計思想を持って、CDだけでなくダウンロードやYouTube、Twitter、ラジオ、ルックアップも加えたチャートを作っている。そのチャートはすごく説得力のあるものになっていると思う一方、単にビルボード礼賛という風にもならないように心がけました。なぜかというと2016年に至るまでの数年間で考えると、ビルボードさんはまだ過渡期で、どの指標を取り入れるのかという仮説検証を繰り返されてきた時期だったので、それが正解なのかどうかは後世に委ねられている部分もあるからなんです。ただ、2030年とか40年に「2010年代のヒット曲はこれだったんだ」と振り返れるかどうか、という発想を持ってチャートを作っているのは、今のところビルボードさんだけかなと思います。

●「ヒット」には色々な捉え方があるかと思いますが、例えばヒットチャートが実体に伴わなくなってくると、後世からその時代の流行歌を振り返ることが難しくなってくるんじゃないでしょうか? 人々の記憶には残っているのかもしれませんが。

柴:『ヒットの崩壊』というタイトルには色々な意味を込めたんですが、ひとつはまさにそこですね。「ヒットチャートの崩壊である」と。亀田誠治さんがおっしゃったように、日本のポピュラー音楽が世界に誇れる文化になっていくためには、未来から振り返ったときに歴史になっていかなければいけない。そう考えると、今起こっていることを統一した基準できちんと記録化することは、とても重要な文化的営みなのではないかと思います。ヒットチャートって、僕らが思っている以上にすごく大事なものなんですよね。ヒットチャートを見れば60年代とか70年代など自分が生まれる前の音楽に対しても「こういうのが流行っていたんだ」と実感が得られるわけで、「それができなくなったとしたら……」ということはよく考えますね。

●カラオケのチャートについてはどうですか?

柴:JOYSOUNDさんの年間ランキングを取材させていただいたんですが、2010年から2016年の6年間を振り返ると、おそらく流行歌というものを一番ヴィヴィットに反映しているのが、カラオケの年間ランキングだと感じました。AKB48もオリコンの年間ランキングを見ると色々な曲があるんですが、カラオケランキングの上位に出てくるのが『会いたかった』『ヘビーローテーション』『恋するフォーチュンクッキー』です。これらはAKBファン以外も「これ流行ったよね」と共有出来る曲ですよね。他に「レット・イット・ゴー」(松たか子、May J.)、「ひまわりの約束」(秦基博)、「女々しくて」(ゴールデンボンバー)もそうですが、多くの人が「サビは思い出せる」と感じる曲は必ずカラオケランキングの上位に出てきます。そういう意味で流行歌というものをものすごく反映しているチャートだと思います。

その上で、これはテレビの音楽番組と重なる現象だと思うんですが、次々と出てくる新しい曲を頑張って歌うのではなく、名曲を歌い継ぐ人たちが増えています。現代のカラオケランキングに中島みゆきさんの『糸』が入ってきたりする。20年前の曲を、たくさんの人がカヴァー・アルバムで取り上げることによって、カラオケの順位が上がってくる。そしてテレビの「歌がうまい王座決定戦」でも歌われる。だからヒット曲が必ずしも新しい曲を意味しないというのは、ここ十数年起こってきた現象なんだなと思います。

●そういった歌い継がれる名曲を本書では「J-POPスタンダード」と表現されていますが、なぜそういった現象が起きたんでしょうか? 現代の音楽を生み出すパワーが衰えているのか、それともあらゆる音楽がアーカイブ化されることで過去の音楽が掘り返されるのか……柴さんはどのようにお考えですか?

柴:ここに関しては僕の中でも、まだ仮説が熟していない段階ではあるんですが、世界的に音楽のアーカイブ化の動きは進んでいると思います。ゼロ年代にどういった波があったかを振り返ると、アメリカでも例えばThe StrokesやThe White Stripesによるロックンロールやブルースのリバイバルがあったり、イギリスではFranz Ferdinandみたいにニューウェーブやポストパンクのリバイバルがあったり、各国のロックの分野でリバイバルブームがありました。それを同時代的に考えると、日本では同時期に「昭和歌謡」のリバイバルが始まっていたと僕は捉えています。

「昭和歌謡」という言葉が活字メディアに最初に出てきたのは2002〜3年あたりなんですね。「歌謡曲」という言葉が復権を始めたのは、そこに「昭和」という言葉がついたからで、それは日本だけではなく、ワールドワイドに起こっていた同時代的な、ミレニアムを乗り越えたあとの動きだったんじゃないかと思っています。それが、世界的に自国文化を見直すようなムーブメントになり、それは政治や社会にも同じように流れ込んでいるんじゃないかと思います。





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