「ヒット」を再定義して音楽の未来を描く
『ヒットの崩壊』著者 柴 那典氏インタビュー

音楽と社会との接点を壊さないで欲しい

●本書ではアナログレコードの復活について触れられていませんが、これは意図的なものですか?

柴:実はアナログレコードに関しては、ストリーミングのところで、初期段階では書いていたんです。これは僕が実際に見てきた例なんですが、ニューヨークのラフトレード・ショップ店内の商品8割位がレコードで、CDは試聴機のところにちょっと置いているくらいの本当におまけなんです。日本においてCDが果たしている役割、今の時代にCDが持っているパッケージという役割は、アメリカではアナログレコードが果たしています。

例えば、この間Hi-STANDARDがCDを出しましたが、往年のファンも、今の音楽ファンも、CDを店で買うことが楽しかったと言う人は多かったですし、そこに自分と音楽の密接な繋がりが感じられていたと思うんです。これって実はアメリカのラフトレード・ショップでアナログレコードを買う今の若い音楽ファンと同じだと思っていて。つまり聴くのはSpotifyなりApple Musicなりストリーミングが主になっている。ただ、ストリーミングでどれだけ音楽を聴いても、所有欲を満たすことはできないですし、満たすにはやはり物を買うしかない。そういう意味では、全てがストリーミングになるとは思っていなくて、そういう意味で執筆初期の段階ではアナログレコードの章はありました。アナログレコード市場はある種のニッチだなと思って外したんですけど、とても大事なピースだとは思います。

●アナログレコードも本書に書かれている「体感」「体験」ですよね。

柴:手に入れる喜びって、やっぱりありますよ。そういう意味で言うと、この本ではあえてCDという物質、パッケージに関しては厳しいスタンスを取っていますが、かと言って単にパッケージの時代が終わりだというスタンスに立っているというわけではない。ただ、ファンが手に取れる喜びというのを今はCDが担っているけれど、CDというのは音質という意味でも最良のパッケージではないという結論が出ていますから、新しいメディア環境に早く対応して欲しい、ということなんです。ユーザーサイド、リスナーサイド、ファンサイドは「タダで音楽を聴きたい」じゃなくて、「好きなものにはちゃんとお金を払いたい」という人が大多数であると僕は思っています。そういった気持ちを正しい形で汲み取って欲しいんです。

●その他に音楽業界に改善してほしいと思っていることは何でしょうか?

柴:これはtofubeatsさんがよく言っていることなんですが「気前は良い方が良い」と。例えば、YouTubeで公開するMVの尺を短くするとか、視聴できるものを少なくすることで買わせるという消費への誘導が、今はまだ支配的だと思うんです。ただ、この本でも書いているチャンス・ザ・ラッパーを例に挙げると、彼は基本的にすべての音源を無料で配信しています。今年出た作品も基本的にストリーミングのみで、ダウンロード販売すらしませんでした。彼はまさに「売り物にしない」という価値観を持った世代で、しかも成功を収めて、巨額の収入を得ています。

音楽でお金を儲けることはとても大事なことですし、業界というものが健全に回っていくのは必要なことだと思うんですが、それを第一に考えてリスナーの選択肢を奪うのは、逆に得策ではないと思います。リスナーはやはり自分の好きなやり方で音楽を聴きたいし、触れたいんです。でも今の日本の配信の状況は「Apple Musicでは聴けない」「iTunesだったら買える」「レコチョク独占」みたいな感じがまだありますよね。こういったサービスサイドの囲い込み戦略って短期的には儲かると思うんですが、長期的には「じゃあいいや」という、「ファン離れ」「音楽に対する興味離れ」を起こしてしまいます。

短期的なビジネスの収益のために囲いを作ることで、長期的には若い層が興味を失ってしまう……これは『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』でも通奏低音として書いていることです。10代はクオリティではなくて身近さ、自分にとっての手にとりやすさで判断するので、囲いを作ることは自分たちの首を絞めることになると思います。ですから、まずはYouTubeのMVの尺を短くするのをやめるところから始めて欲しいです(笑)。

●(笑)。90秒しか音源が聴けないとかありますよね。

柴:「90秒だからフル音源を買おう」と考える人のことより、そっと離れていく人のことを考えていったほうが良いと思いますね。意思決定の判断を握っている音楽業界の方々に対して、「音楽と社会との接点を壊さないでください」という願いがあります。

●本書は、点としては分かっていた出来事を線で繋がれているので、読んでいるうちに頭の中の整理ができました。音楽に携わる多くの方々にも是非読んで頂きたいですね。

柴:そうだと非常にうれしいですね。編集の方は、音楽以外に届くこともすごく意識されていましたし、僕もそれを念頭に書いたんですが、やはり届いて欲しいのは音楽業界の意思決定を担っている方々なんです。この本は不安を煽ったり「こうしないとダメだ」という意見というよりは、ミツバチが花の周りを回るように「現場の想い」を集めてきた本だと思います。

●最後に本書に興味を持っている方たちにメッセージをお願いします。

柴:今の時代は音楽にとって、とても良い時代だと思っています。ただ過渡期、変化の時代であるのも間違いないです。音楽に携わる人たちは、皆それを分かっていますし、過去を知っている方ほど、悲観的になりがちだとも思うんですが、今生み出されている音楽はとても豊かですし、ライブも含めて現場は活気に溢れています。僕は常に「現場に正解がある」と思っていて、音楽に携わる人のそれぞれの現場には、それぞれの正解があると思うんですが、その正解と符合するようなものを本書から感じてもらえたらすごく嬉しいですね。

『ヒットの崩壊』著者 柴 那典氏インタビュー


柴那典「ヒットの崩壊」
柴那典著「ヒットの崩壊」(講談社現代新書)
発売中
800円+税
http://gendai-shinsho.jp/


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